前回に引き続き、『戦争は女の顔をしていない』の2巻のあらすじと見どころについて書いていこう。2巻目を買おうか迷っている人の手助けになれば嬉しい。
2巻は原作者のスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ氏が『戦争は女の顔をしていない』を書くに至った理由が描かれてて、興味深い内容となっている。
前回の『戦争は女の顔をしていない』1巻はこちらからどうぞ
あらすじ
スヴェトラーナは子供の頃から本好きだったが、戦争ものは嫌いであった。しかし、スヴェトラーナの住んでいた村は戦争により男性がおらず、村の女性達は戦争の話をよくしていた。やがてスヴェトラーナは、祖母や村の女性たちから聞いた戦争を外に伝える方法を模索するようになる。
そして、従軍女性にインタビューしたものをまとめることを思いつく。スヴェトラーナのインタビューによって様々な女性たちから、女性でありながら戦争に参加した理由が語られていく。
見どころ
人間のスケールが戦争を超える
出典『戦争は女の顔をしていない』原作:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ/作画:小梅けいと/監修:速水螺施人・KADOKAWA
スヴェトラーナは幼い頃から本が好きであったが、「戦争もの」は嫌いであったという。そんな彼女が「戦争」について書こうと思ったのは、その子ども時代の経験がきっかけであった。
彼女が生まれたとき、村には女性しかおらず、「戦争」は子どもたちの間で遊びのコンテンツとして扱われていた。スヴェトラーナは「戦争」というものがどういうものなのか、解き明かしたいと考えるようになった。
そして、祖母が語った村にある畑は戦後もなかなか何も生えてこなかったと言い、さらにその畑で戦闘があったあとは死体まみれであったことをスヴェトラーナに語った。
祖母の話も、畑の光景も彼女のなかに強く残り、自身が見聞きした「戦争」を伝える術を模索していく。そして、ついにその術を見つけた。
スヴェトラーナは従軍女性たちにインタビューをするなかで、戦争のスケールと人間のスケールについて考えることになる。
スヴェトラーナの「人間は戦争よりずっと大きい」というセリフは、本作を読むにあたって様々なことを考えさせてくれるものとなっている。
戦争は悲惨であることはみんなが知っていることであるが、ではそこに参加している人間はどうだろうか。
とある女性は道いっぱいに転がっているドイツ兵の死体の上を馬車で通ったときに、頭蓋骨が折れる音が聞こえて、嬉しかったと語っていた。こういった、人間の中にある残虐性が戦争の悲惨さを超えたとき、人間のスケールは戦争を超えるのかもしれない。
どういったときに、人間は戦争の大きさを越してしまうのか。これを念頭において1巻を読み直してみるのもいいと思う。
女の子たちの間にあった「祖国防衛」という意識
出典『戦争は女の顔をしていない』原作:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ/作画:小梅けいと/監修:速水螺施人・KADOKAWA
1巻に登場した狙撃兵のマリヤが戦争に参加するきっかけについて描かれた。マリヤはどこにでもいる平凡な少女であったが、ドイツのソ連侵攻をきっかけに、変わっていくことになる。
戦争が始まると村の男達は戦争へ向かい、残されたマリヤや他の女の子たちのなかに長引く戦争に対して「前線にでなければいけない」という空気が生まれた。
マリヤたちは徴兵司令部にて基礎の訓練を受けて、モスクワにドイツ兵が進行してきたと聞いて、「祖国防衛」のために立ち上がる。
そして、前線行きが決まり、マリヤたちは意気軒昂といった様子で、前線へ向かった。
独ソ戦争の始まりは、ヒトラーがソ連の良質な土地を欲しがったことと、ソ連壊滅を狙ったことによるものである。ドイツに負けてしまえば、土地は取られ、民族は滅ぼされてしまう。
そのような状況下であれば、性別関係なく自分の国を守ろうと立ち上がるのは自然なことだろう。なにより彼女たちは若かった。
若いということはまだ様々なことへの経験が浅く、頭でわかっているだけなんてざらである。そんな彼女たちが持った「祖国防衛」の意識の先にあったものに注目してほしい。
1人の中にある2つの真実
出典『戦争は女の顔をしていない』原作:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ/作画:小梅けいと/監修:速水螺施人・KADOKAWA
ニーナという女性は、自身が戦争の参加するきっかけや、衛生指導員として負傷者を助け出したこと、女の子の新兵だったためにからかわれたこと、一緒に来ていた友人たちの最期などたくさんの話をしてくれた。
しかし、ニーナはスヴェトラーナがインタビューを元に書いた原稿の大半を添削して、削った。上官にからかわれた話、新兵だったころの失敗談、男性中尉に言い寄られたことなどの話を、なぜ書いたのかと言わんばかりに、原稿の文字に横線が引かれている。
ニーナは戦争で戦った勇敢な女性兵士で、息子たちからみたら英雄であり、自身も従軍して戦ったことを誇りに思っている。
そのため、赤裸々に書かれた人間味のある彼女の姿は、理想の英雄像から離れてしまうのだろう。
心の奥底にある彼女たちの真実と、他者から見る英雄としての彼女たちの真実。1人の中にある2つの真実というのは、とても印象深く、そして興味深かいものとなっている。
まとめ
『戦争は女の顔をしていない』の1巻は従軍女性の話にスポットを当てたものとなっていたが、2巻ではスヴェトラーナについても触れられていて、彼女のインタビューした人たちへの考えが描かれていて、とても面白い巻である。
1巻に負けず劣らずのできなので、読んで損はない作品だと思う。