あらすじ
今は寂れた香道・笛小路流の家元の邸宅に、家の主・瑠璃姫の婿候補として訪れた公家・大澤、廻船問屋・半井、東侍・室町。そして、なぜかそこに混じる薬売り。薬売りは本来来るはずだった4人目の婿候補・実尊寺の代わりにを務めることとなり、婿を決める戦い、組香に参加する。
しかし、勝者が決まる前に瑠璃姫は何者かに殺されてしまう。薬売り以外の3人は瑠璃姫の死を悲しむことなく、「東大寺」と呼ばれる香木を脇目もふらずに探し始める。
背景美術元ネタ
葡萄小禽図襖絵
冒頭や場面転換の襖に描かれてる葡萄の絵は鹿苑寺大書院障壁画のひとつで、江戸時代の絵師・伊藤若冲の「葡萄小禽図襖絵」が元ネタである。
大書院の中でも一番格式の高い一之間に飾られており、どころどころ葉に穴が空いていたり、不規則にぐねぐねと曲がる枝など、リアルに描かれた絵となっている。
蘭奢待の格式に合わせて格式の高い絵を採用したのか?それとも、蘭奢待の別名である東大寺の寺繋がりだろうか。
白象黒牛図屏風
薬売りたちが組香をする部屋の襖に描かれている白象と黒牛は、江戸時代の絵師・長沢芦雪による「白象黒牛図屏風」が元ネタである。
元絵は二枚の屏風に一頭ずつ描かれており、屏風からはみ出すほどに大胆に描かれた白象と黒牛が目を引く作品となっている。この作品は屏風を開くときが、一番楽しいという。
黒牛の方は屏風を畳んだ状態で見ると、黒い岩のそばでくつろぐ犬の絵のように見えるが、広げていくと黒い岩ではなく大きな黒牛であることがわかっていく。白象は畳んだ状態だと白い壁にしか見えないが、開いていくと大きな白象であることがわかる。見る場所によって、印象が変わる面白い絵となっている
見る角度によって姿を変えるというのは、鵺の性質とマッチしているように思う。
余談だが、黒牛に描かれた子犬の気の抜けた姿が可愛いと一時期SNSで話題となっていたので、元絵の方も見てみてほしい。めちゃくちゃ可愛い。
虎図襖絵
組香の部屋の襖に描かれている虎の絵は、無量寺の室中之間の襖に描かれている長沢芦雪の「虎図」が元ネタである。芦雪の持ち味である動物の大胆なデフォルメが特徴的で、迫力がありながらどこか愛らしさを持った虎の絵だ。
鵺は文献によって様々な姿で伝えられて描かれており、胴体や足が虎であるというものがある。そこから、虎図を採用した可能性がある。
群鶏図
組香の部屋から瑠璃姫のいる部屋へ通づる襖に描かれている鶏は伊藤若冲の「群鶏図」が元ネタである。そのままの採用ではなく、一部を切り取って使われている。そのため、少し分かりづらいが、鶏の鶏冠の描き方を比べると、とても似ている。
室町時代の資料には胴体が鶏の鵺が出現したというところからの、採用と思われる。
ちなみに、鵺の声はトラツグミという鳥が正体と言われており、鵺鳥と呼ばれることもあるそう。
池辺群虫図
瑠璃姫が屏風に描かれた絵を相手に色に耽るシーンの合間に挟まれる蛙の絵は、伊藤若冲の「池辺群虫図」が元ネタである。元絵は蛙以外にも様々な虫が描かれているものとなっている。
蛙の姿を切り取って使用して、男女の絡みを表している。絡む蛙は瑠璃姫、左下にいる絡む蛙を見ている蛙は半井だと思われる。
まとめ
「鵺」は純正なホラーといった雰囲気が好きな話。私が一番怖いと思ったシーンは首の骨が折れる音がするシーン。鳥肌が立つほど怖い。色の使い方も印象的で、他の回とは違って、薬売りさん以外の色調が違うんのも印象深い。香りを色で表している表現は、初見時に感動したのを覚えている。
ちなみに、今回の話で薬売りさんが呆然とする表情を見せてくれるのが新鮮で好き。あと、田舎侍さんが可愛くて好き。田舎侍ということにコンプレックスを持っているのが、人間味全開で可愛い。表情の豊かさのなんと愛らしい。
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ゆっくり見たい人にはコミック版がおすすめ
襖の絵の描き込みが丁寧なので、非常に見やすい。ホラーな雰囲気も画面から香ってきそうなお香の描写も素晴らしい作品となっている。
前回の「のっぺらぼう」はこちらから