劇場版『モノノ怪』の公開が決まって、ほっくほくしてるので、テレビアニメ『モノノ怪』についての記事を書いていこうと思う。
今回は『モノノ怪』の「座敷童子」の背景美術に使用された日本画の元ネタを調べてみたので、解説していく。
「座敷童子」のあらすじ
とある宿屋に身重の女性・志乃が訪れる。志乃は人に追われているから、宿に泊めて欲しいと女将に頼み込む。女将は苦い顔をしながらも、志乃を宿屋の奥の部屋に案内する。宿屋には夜遅いというのに幼子の声が響いていた。
一方、同じく宿を訪れていた男・薬売りは宿屋にいる「モノノ怪」の気配を探っていた。
背景美術の元ネタ
「座敷童子」の背景には物語に関する日本画や実在するホテルの内装が使われている。調べてわかった限りのことを解説していく。
浮線蝶
冒頭で薬売りが差している傘に書かれた文様は浮線蝶(ふせんちょう)と呼ばれる家紋のひとつが元ネタ。薬売りの着物の柄が蛾をモチーフにしていることや、edアニメーションで蛾が飛んでいるものとなっていることから、使用されていると思われる。
薔薇に鸚哥図
薬売りが女将に薬を紹介しているシーンの壁画は江戸時代の画家・伊藤若冲の作品「薔薇に鸚哥図(ばらにいんこず)」が元ネタ。
作品内では薔薇から桃に変わっている。これは「座敷童子」が赤子に関する話であるため、多産や子孫繁栄など子宝に関する意味を持つ桃に変えられたのだろう。
百犬図
志乃が案内された部屋の扉の上に描かれているのは伊藤若冲の作品「百犬図」の一部である。
犬は安産や多産の象徴であるため、桃同様に取り入れられたと考えられる。
余談だが、元絵は59匹の子犬がじゃれ合っている姿が描かれていて、大変可愛らしいので機会があれば本家の絵も見てみて欲しい。
風俗美人時計・子ノ刻 妾
志乃が案内された部屋の壁に描かれているのは喜多川歌麿の作品内「風俗美人時計・子ノ刻 妾」である。
子の刻とは辰刻における1番目の刻であり、現在で23時から2時までの深夜帯のこと。深夜に子どものおしつっこの世話をする妾を描いた絵である。
子どもが直接的に描かれているため、モチーフとしてわかりやすい。また、子の刻の子はネズミを表す文字であり、ネズミは繁殖力の高さから子孫繁栄の象徴としてあつかわれている。
悲母観音
志乃が案内された部屋の壁に描かれているのは江戸末期の画家・狩野芳崖の作品「悲母観音」である。
悲母観音の悲とは慈悲のことであり、慈悲深い母という意味になる。また、観音は如来となるために修行している仏のことであり、その目標は「あまねく衆生を救うこと」。
作中ではカットされているが、元絵には生まれたばかりの赤子の姿も描かれている。カットされているのは、赤子が生まれてこれなかったことを表しているのか。
宿屋の内装は目黒雅叙園がモデル
宿屋の内装の一部は東京都目黒区にあるホテル目黒雅叙園がモデルとなっている。
志乃が部屋に行くまでに登った赤い階段は「百階段」がモデル。
実際の百階段は百段ないようで、99段となっているとのこと。
部屋までの道中にある朱塗りの橋は、トイレに行く橋がモデル。
実際のホテルのトイレは一億円という大金をかけて作られたようで、美しいトイレになっている。
ややこの納骨引き出しはホテルのなかで一番格式の高い一室「十畝(じっぽ)の間」にある組子障子がモデル。
ちなみに、組子障子は釘を使わずに木を幾何学模様に組んで作る障子のことである。
ちょっとした小ネタ
日本画とは関係ない、ちょっとした小ネタを紹介。
志乃の髪型
志乃の前髪はハートの形になっており、そこに普通の簪と一緒に弓矢の形をした簪が挿してある。これは、キャラデザをした橋本氏曰く「恋の矢」というイメージがあるとこのこと。
若旦那に恋心を持った志乃をよく表している秀逸なデザインとなっている。
私は初めて見たときに、一見ギャグみたいな感じなのにキャラによく馴染んでいてすごいなと思った。
壁に描かれたてんとう虫の絵
調べても出てこなかったので、オリジナルの絵であると思われる。
2匹のてんとう虫がアブラムシを食べている姿が描かれている。てんとう虫は懐妊、子宝の縁起物とされている。大量のアブラムシを食べているのは、てんとう虫の成虫のエサであるためか。
てんとう虫の背中には宿屋の名前である「万」の文字が書かれているため、店と客を比喩している可能性がある。
まとめ
『モノノ怪』はあえてすべてを語らないスタンスの作りになっているので、考察をするのが楽しい作品となっている。
ストーリーについては色々な方が考察されているので、今回はあえて背景美術の元ネタのほうを調べてみた。
改めて調べてみると、志乃の部屋に飾るにはずいぶん皮肉な絵が多い印象を受けた。なぜ皮肉に感じるのかは志乃の部屋が元々何に使われていたのか知ると、わかるかもしれない。
アニメ『モノノ怪』はAmazon Prime Video(無料お試し有)にて配信中。
アニメだとゆっくり見れないなと感じる方には、マンガ版がおすすめ。
アニメ版をそのままマンガに落とし込んだようなクオリティになっているので、日本画の部分もゆっくり見ることができる。
次は「海坊主」を書く予定。(時間頑張って作る…!)
(追記:2024/03/06)書けたので、よろしかったらどうぞ。