前回の「海坊主」に続いて「のっぺらぼう」の背景美術の元ネタを考察してく。
「のっぺらぼう」のあらすじ
嫁ぎ先の夫とその家族を皆殺しにした女性・お蝶。お蝶は奉行から死罪を言い渡されて牢に入っていたが、その牢に奉行に捕まったという薬売りがやってくる。薬売りはお蝶との会話のなかで、本当に家族を皆殺しにしたのかを聞く。そこに、仮面をつけたアヤカシの男が現れて、薬売りを退けてお蝶に結婚を申し込む。お蝶は結婚の申し出を受け入れて祝言を上げている最中に、再度薬売りが現れて…。
背景美術の元ネタ
紅白梅図屏風
お蝶の牢屋の壁に描かれている模様は江戸時代中期を代表する絵師・尾形光琳の「紅白梅図屏風」が元ネタ。光琳の傑作と謳われる作品で、紅梅と白梅の間に川が流れている絵となっている。梅の木の幹の部分をアップにして描かれているようで、一見するとわかりにくい。
また、作中に登場する梅も「紅白梅図屏風」が元ネタである。梅はまだ寒い1月下旬かが開花時期となっており、まだ厳しい寒さの残るなかで咲くことから「忍耐」という花言葉を持つ。
「忍耐」はお蝶を表す言葉として相応しいように思う。お蝶はお家再建のために母親から厳しい稽古教育を受け、年相応に遊ぶことも許されず、好きでも相手に嫁ぎ、さらにそこで虐げられる。お蝶の心は耐えきれずモノノ怪を生み出してしまうが、それでもそこまで耐え忍んだお蝶の人生を思うと、込み上げてくるものがある。
群舞図
お蝶のいる台所にある衝立に描かれている踊っている黒い着物の女性は、江戸時代後期の絵師・鈴木其一の「群舞図」が元ネタである。元絵の方は5人の男女が踊っている絵であるが、『モノノ怪』では黒い着物女性だけが採用されている。
元絵の方が、ネットで調べる限り結構情報が少なく、調べても採用の理由がわからず機会があれば、本などで調べてみたい。
『モノノ怪』では黒い着物をお蝶の義妹にあたる人物が着用している。そのため、踊っている女性は義妹を表したものである。
観楓図屏風
上記と同じく台所にある衝立に描かれた踊る男性は室町時代から安土桃山時代の絵師・狩野秀頼の「観楓図屏風」が元ネタ。元絵は清滝川のほとりで様々な人々が紅葉狩を楽しむ人々の姿が描かれた作品である。この男性は元絵の左側にある酒宴を楽しむ男性の中のひとりがモデル。
『モノノ怪』ではお蝶の義弟にあたる人物を表したもので、夫婦で踊りを楽しんでいる。
まとめ
「のっぺらぼう」は抑圧されたお蝶の人生が気の毒になる話だ。よく、幼少期になにかを抑圧された人間は大人になると、抑圧されたものに執着をするという。たとえば、アニメやゲームなんかを過剰に禁止された人は、大人になって親の手から離れると依存するように夢中になるとか。
親という監視者がいなくなり、自身が自由であると認識できればいいのだろうが、お蝶は親の元から離れても、嫁ぎ先という監視者がおり抑圧され続けたために、表に出すことなく内部でそれを発散していた。
「のっぺらぼう」には梅が多く登場し、本文で書いたように「忍耐」のお蝶の人生を表している。さらに、梅に関する言葉には梅根性なるものも存在しており、頑固で変わらない性質を指すという。
物語のラストで、お蝶は変われたのだろうか。その解釈は見た人によって変わるだろうが、私は変わったと思っている。
今回の背景美術はあまり調べきれなかった感が否めない。時間があれば再度本などで調べ直したいと思う。
アニメ『モノノ怪』はAmazon Prime Video(無料お試し有)にて配信中。
前回の「海坊主」はこちらかどうぞ