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1冊完結で読みやすいマンガ『蜂の巣』のあらすじと見どころ紹介

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今回は、時間がなくてもサラッと楽しめて、かつ心に残る作品を紹介したい。『峰倉かずや短編集 蜂の巣』のあらすじと見どころを書いていく。

峰倉かずや先生の代表作は『最遊記』や『ワイルドアダプター』。『蜂の巣』は「死」をブラックユーモアとして扱っており、全6話+番外編『蜘蛛の巣』で構成されていて、短いのでサラッと読むのに適している作品。

 

『蜂の巣』のあらすじ

舞台は未曾有の大災害に見舞われた影響で、治安が悪化してしまった日本。臓器売買が横行したことで、遺体の盗難の危険がある葬式は廃れていき、今では各地方役所が遺体の回収を行っていた。この「葬迎屋」と呼ばれる役職に就いている山崎と陣内のコンビは、日々遺体を回収しては火葬場まで運んでいた。

業務をこなす中で、恋人を亡くした女性、母を亡くした子どもなど、遺された様々な人々との交流が描かれる。

見どころ

ぶっ飛んだ設定に混ぜられている現実味

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出典:『峰倉かずや短編集 蜂の巣』©峰倉かずや/一迅社

『蜂の巣』の舞台は、未曾有の大災害が起きた日本。災害でダメージを受けたことで、新たな日本国基盤を一から立て直すために都道府県という括りを廃止。代わりに蜂の巣状のブロック形式で区画管理がされている。そして、災害が元となり、日本の治安は悪化して、臓器売買が横行するようになってしまった。そのため、遺体の尊厳を守るために、遺体盗難の危険がある葬式は廃れ、遺体は葬儀屋によって火葬場に直接運ばれるようになる。

設定だけを見ると、ちょっとぶっ飛んでいるように感じるが、実はあながちぶっ飛びすぎた設定でもない。区画が蜂の巣というのはぶっ飛んでいるが、災害による治安悪化、臓器売買の横行などは現実的に起こりうるものだ。

災害時というのは人の悪意が大きく動きやすいものだ。犯罪者を罰する機関も麻痺しているから、見逃されてしまうことも珍しくない。見逃される数が多くなれば、全体の治安に響くのは間違いない。

そして、臓器売買というのも海外ではオーソドックスな犯罪だ。人の死は一日に何十、何百と起きることであり、死体に困ることなど到底ありえない。そして、新鮮で健康な臓器を欲しがる人間というのはごまんといる。

ぶっ飛んだ設定に現実味のある設定が織り交ぜられることで、独特の世界観を構築しており、本作の面白さを演出している。

「死」をテーマに展開される人間ドラマ

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出典:『峰倉かずや短編集 蜂の巣』©峰倉かずや/一迅社

本作は「死」をテーマにしており、そこから様々な人間ドラマが展開していく。恋人を亡くした悲しみから自殺しようとする男性の話や、亡くなった父親の臓器を売りに行こうとする息子の話などがある。

どれも、一見シリアスで重そうだが、コミカルなシーンを挟んで描かれていて、必要以上の重さは感じない。

自殺しようとする男性に山崎が「火葬場まで運ぶのがめんどいから、火葬場で死んでくれ」と頼んだりする。男性も読者もポカーンとなるが、変に自殺しないように説得するというのは、クサく感じてしまうだろう。

この温度感がストーリーのテンポを良くしてくれていて、大変読みやすい。

コミカルなシーンがあるからといって、「死」を軽く扱っているわけではない。根底にあるのは「死をどう受け止めて生きるか」である。

「死」は誰にも等しく訪れるものであり、残された人たちに与える影響はとても大きい。残された人たちの気持ちに注目してほしい。

魅力のあるおじさんコンビ

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出典:『峰倉かずや短編集 蜂の巣』©峰倉かずや/一迅社

山崎は29歳でおじさん一歩手前(?)で陣内は51歳と立派なおじさんだ。このおじさんたちはが人間的な魅力に溢れたキャラである。

山崎は火葬場の受付の女性をナンパしたり、ルール上葬迎者に乗せては行けない生者を乗せたりなど、チャラくてルーズな性格をしている。しかし、ちゃらんぽらんというわけではなく、山崎なりにしっかりとした人生観と仕事への矜持を持ち合わせている。

陣内は競馬競艇プレロスが趣味とおじさんバリバリ。年齢が山崎より上であるが、軽口を叩き会えるフランクさを持った性格。一人娘を失くしている経験上、年頃の女の子に甘い。年齢を重ねて、仕事上様々な人達を見てきたために、人の気持ちを汲み取ることが上手で、遺族に寄り添える優しさを持つ。

この二人は人気のデコボココンビでも、先輩後輩が強調されたコンビでもないが、程よい距離感のある見ていて気持ちいコンビだと思う。お互いに軽口を叩き合ったり、臓器売買の人間に襲われたときは、山崎は運転、陣内は武力(銃)と役割分担もしっかりとしている。

流行りではないけれど、たしかな魅力を持ったキャラのコンビなので、推しにいかがだろうか?

おじさんコンビ美味しい。

他収録短編も面白い

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出典:『峰倉かずや短編集 蜂の巣』©峰倉かずや/一迅社

『蜂の巣』以外にも番外編の『蜘蛛の巣』、一迅社から発行されているオリジナルアンソロジー「アルカナ」に収録された峰倉かずや先生の短編が4本収録されている。

『蜘蛛の巣』は本作に登場する臓器売買を生業にしている恩田とその部下・漆原を掘り下げた内容となっている。本編では顔が少ししか出なかったので、2人の人となりがわかるのが面白い。

他にも、用意された題材から峰倉かずや先生の解釈で展開される独特のストーリーは、短いにも関わらず、どれも印象深く引き込まれるものとなっている。

まとめ

『蜂の巣』はこの単行本で完結となっていて、1冊であっさり読める。しかし、あっさり読めるのに内容はどれも印象深く、心に残るものとなっていて読み応えはバッチリ。

峰倉かずや先生が好きな人なら買って損はないだろう。知らないという方は、ここを入門として読んでみるのもいいかもしれない。