前回に続いてアニメ『モノノ怪』の「海坊主」の背景美術について書いていく。
前回の日本画から変わって海外の絵画が採用されている。
「海坊主」のあらすじ
廻船問屋をしている三國屋多門の江戸行きの廻船に乗っていた薬売り。船には、かつて化猫騒動で面識のある・加世(かよ)、高僧・源慧(げんけい)、その弟子・菖源(そうげん)、修験者・柳幻殃斉(やなぎ げんようさい)、浪人・佐々木兵衛(ささき ひょうえ)が乗り合わせていた。道中の夜、何者かの細工によって船はアヤカシの海と呼ばれる海域「竜の三角」に迷い込んでしまう。
そこで、モノノ怪に出会った薬売りはモノノ怪の正体を探っていく…。
背景美術の元ネタ
出典:©モノノ怪製作委員会
船の内部に描かれている男女の絵はグスタフ・クリムトの「成就」と「歓喜の歌」、「水蛇Ⅰ」、「ユディトⅠ」、「水の妖精」が組み合せられている。
成就
出典:©モノノ怪製作委員会
「成就」とはストクレ フリーズの3連作のひとつであり、抱き合うカップルの絵である。元絵の方は男女ともに服を着ているが、「海坊主」では男性が裸、女性の下半身は蛇のようになっている。
「成就」のカップルはクリムトとその良き友人・エミーリエだという説があるという。なぜ、友人のエミーリエが出てくるのか、詳しい説明はやや複雑なので割愛する。
簡単に説明すると、結婚はしていないし子供いないけれど、心が最も近くにあった関係といった感じだろうか。エミーリエは誰よりもクリムトに寄り添い、支えた人物で、周囲からは妻であるとすら思われていた女性。
歓喜の歌
裸の男性の後ろ姿は「歓喜の歌」と一緒のように見える。「歓喜の歌」は「ベートーヴェン フリーズ」と呼ばれる3連作品のひとつ。
「歓喜の歌」には【女性による男性の救済】というテーマがあるらしい。
水蛇Ⅰ
出典:©モノノ怪製作委員会
男女の足元にある鱗の描かれた部分は、「水蛇Ⅰ」の下半身が蛇の女性たちの後ろにある鱗部分に似ている。
また、抱き合うカップルの女性の下半身が蛇(あるいは魚)に置き換わっているのも「水蛇Ⅰ」がモチーフだろうか。
元絵の「水蛇Ⅰ」に描かれている女性は穏やかな表情に見えることから、お庸は負の感情を持たず、海を漂っているという暗示なのか。
ユディトⅠ
出典:©モノノ怪製作委員会
抱き合う男女の横にある金色の植物は、「ユディトⅠ」の背景に描かれていた、イチジクとブドウの木に酷似している。
こちらは、調べてみても採用の理由がイマイチわからなかった。
水の妖精
出典:©モノノ怪製作委員会
男女の左下辺りにある顔のついた黒いものは「水の妖精」だと思われる。
水の妖精は悲恋物語に多く登場するため、叶わぬ恋心を抱いていたお庸を表しているのだろうか。
上記のクリムトの絵を組み合わせることで、お庸の本当の気持ち、叶わない恋心、心が最も近くにあった女性に抱かれて救済される男性という、お庸と源慧を表しているように思える。
最後に現れたお庸は源慧に寄り添うような仕草を見せている。
生命の樹
出典:©モノノ怪製作委員会
船内にある水槽に描かれた絵はクリムトの「生命の樹」と「水蛇Ⅰ」を組み合わせたものと思われる。
「生命の樹」は「成就」同じく、3連作のひとつ。大樹から伸びた枝がぐるぐると回転している姿は、人生の複雑さを表している。
ちなみに、「水蛇Ⅰ」は鱗部分が使われている。
ちょっとした小ネタ
クリムトとは関係ないちょっとした小ネタを紹介。
灰で結界を作るのは『怪 〜ayakashi〜』のオマージュ
出典:©モノノ怪製作委員会
モノノ怪によって船が襲われたときに、修験者の幻殃斉が結界を張るために灰を持ってくるように指示をするシーンがある。
灰で結界を張るシーンは『怪 〜ayakashi〜』の「化猫」にも登場するため、セルフオマージュだと思われる。
まとめ
クリムトは女性の官能的な美とほのかに香る死を描いていた。「海坊主」では、源慧が過去を語るシーンにお庸の足が艶かしく写る。それから、源慧と弟子の菖源と肉体関係があるような仄めかしなどがあったりと「性」を彷彿させる描写が多い。
クリムトを採用したのはこういった部分を表現するためだったのだろうか。
目茶苦茶余談なのだが、私がクリムトを知ったのはアニメ『エルフェンリート』のオープニングの絵からである。クリムトの絵の人物が登場キャラたちになっていて、とても印象深い。詳しい話は今回と関係ないので、また今度。
「海坊主」はキャラ同士の掛け合いのテンポが良くて、聞いていて楽しくなる。とくに加世と幻殃斉の2人はコミカルな喋りと行動が多いので好き。ゆかな氏と関智一氏の軽快な喋りがなんか癖になる。
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ゆっくり見てみたい人はコミック版がおすすめ。
蜷川ヤエコ先生がアニメをそのまま漫画にしてくださっていて、アニメの雰囲気をそのままお手軽に楽しめる。
前回の「座敷童子」の記事はこちらからどうぞ
次は「のっぺらぼう」を書きたいな。
→書けたので、よろしかったらどうぞ