Youtubeのアニメタイムズ公式チャンネルで2024年1月30日から同年3月1日の12時までの期間限定で配信しているので、8話に続いて、アニメ『蟲師』9話「重い実」について、あらすじと見どころを書いていく。
前回の「海境より」はこちらからどうぞ
あらすじ
天災のたびに豊作になるという村へ訪れたギンコは、村の子供・サネから、天災で豊作となった年の秋に、村の誰かの口に「瑞歯」と呼ばれる歯が生えてきて、秋の終わりに歯が抜けるのと一緒に死ぬという話を聞く。
その瑞歯がナラズの実と呼ばれる光脈を閉じ込めたものであることを察したギンコは、事情を知るであろう村の祭主の元を訪れる。
見どころ
トロッコ問題なストーリー
今回の話では1人の命を取るか、大勢の命を取るかという問題が大きいものとなっている。これは、トロッコ問題という一時期SNSでも話題となったものと同じである。
トロッコ問題とは、「路面電車が制御不能に陥ってしまい、そのままにしておくと先で作業している5人が轢かれてしまう。切り替えポイントの直ぐ側にいた『あなた』が路線を切り替えることで、5人は助かるが、切り替えた先で作業している1人が死ぬ。『あなた』はどうする?」というもの。
ちなみに、この問題に正解はない。大を取るか、小を取るかという人によって答えが分かれる問題となっている。
作中では祭主は大を取り、小を捨てる形を選んだ。祭主がこの答えを出すまでの葛藤や、出したあとの苦悩に注目してもらいたい。
自分ならどうするだろうか。
ギンコは決してヒーローではない
ギンコは各地をまわって「蟲」の起こす現象や、それに関わった人たちに干渉する。ときに、手助けをしたり、助言を出すことがある。しかし、だからといってギンコがヒーローかと問われれば疑問が残る。
今回はその疑問が強く出ている話だと思う。ギンコは、「ナラズの実を埋めることは先祖の土地を穢すことになる」と祭主に強めに言う。その言葉に対して「使わずにいられるのか」と反論されると「里に住んだことがないからわからない」と答えをはぐらかす。
実際ギンコは里に定住できない体質なので、この言葉に嘘はないのだろうが、大口をたたいた割には逃げるような態度にも見える。
この態度が、ギンコがヒーローではないと思わせるものであると考えられる。ギンコは基本的に相手を叩くような言葉を言ったときに、相手に返されると濁して下がる。なんとも、ズルい。
ただ、このズルいは悪い意味ではなく、ヒーローは持ち合わせていないが、人間なら誰しもが持っているズルさなのだ。
ギンコは基本的に相手に対して真摯で、問題解決に尽力できるが、そういったズルさも持ち合わせている。そしてこういった人間らしさが濃いから、ドラマ性が生まれる。「重い実」は、特にそのドラマ性が濃い話となっている。
祭主の決断の重さ
祭主は先代から託されたナラズの実を使うか迷っていた。使えば大勢の村人を救えるが、1人死んでしまう。最後まで悩んでいたが、悪くなるばかりの状況を改善すべく、ナラズの実を使う。
ナラズの実を使ったことで、村人は助かったが、妻が次のナラズの実を体に宿したことで死んでしまう。祭主は妻がナラズの実を宿したことを知ったときに、妻の命で作られる米を食べることができなかった。
それでも、妻は祭主を愛していたから、自分の命を元にした米が祭主を生かすのなら、死ぬのも怖くないと言う。祭主もまた妻を愛していたから、妻から抜け落ちたナラズの実が埋まっている、村を手放したくないし、村を無くしたくない、ずっと村を見守りたい。
ナラズの実を宿した祭主が最後に下した決断は、とても重いものとなっている。
まとめ
「重い実」はテーマが深く、とても印象深い話だ。トロッコ問題もそうだが、祭主の最後の決断も本当に幸せなのか、誰にもわからない。
そもそも、その人が幸せなのか不幸せなのかは他人に図ることなどできないのだと、「露を吸う群れ」でも描かれていた。はたから見たら不幸せでも、当人は幸せなんていうことはごまんとある。
「重い実」もそういう話だと思う。祭主は妻のことを忘れないし、愛し続けるんだろうな。
余談だが、トロッコ問題といば、私は『Fate/Zero』を思い出す。主人公の切嗣は正義のために大を取って、小を捨てた。しかし、その結果は大事な人を失い続けるものだった。メンタルが大いに死んだ。
正解がないことほど、難しいことはない。
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